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01 月 23 日 ( 金 )

Dive #118 ダイバーとしての個人史 #2 バディについて (5)

【Diving Spot Triton 時代 - 世の中の傾向としてのバディシステムの崩壊】

二人の人物が登場します。丘くん (仮名) と原西さん (仮名) です。ぼくがアシスタント・インストラクターに認定される直前と直後の話になります。二人はぼくを激しく怒らせたんですね。

ここで二人を取り上げるのは彼と彼女を非難するためではありません。そのときぼくが何に対してどのように腹を立てて怒ったのかを描くことで、ぼくにとってバディがどんな存在だったかを浮き彫りにするためです。

当時ぼくが感じていたり、実際に口に出した、きつい表現、厳しい表現もでてきますが、それは二人を非難するためではありません。30 年前に一時的にせよ一緒に過ごした人たちを今更非難する意味はまったくありません。そんなことは無意味です。

当時ぼくが何を大切に思っていたか、そして一緒に潜る人たちにどのようになって欲しかったのかを明らかにするためだと了解していただければ幸いです。

もしかすると当時のぼくの熱量を思い出して、若干感情が乗って筆が滑ってしまうかも知れません。そのときは偏屈なジジイの戯言だと思って何卒ご容赦ください。


ぼくの望みは単純でした。

海で死なない。

海で危ない目にあわない。

バディに死なれて後悔しない。

そういうダイバーになって欲しい。

ただそれだけでした。

そのためのツールとして講習があり、機材があり、継続コースがあり、そしてぼくに考えることができる中で最強、最高のものとしてバディ・システムが存在していました。

Gemini により生成
イラストはフィクションです。
丘くんにしか怒ったことはありません。

自立して、バディと共に安全にダイビングを楽しむ、そんなダイバーを師匠が育てているのを、ぼくは Diving Spot Triton で目撃して、師匠に弟子入りを志願しました。

ですがそんな Triton にも、自立することに興味がなく、バディとはなにか、バディがいかに自分を助けてくれて、自分もバディを助ける存在でなければならないのか、ということを一切考えない人たちが常連さんに混ざっていることを知ることになります。

まずは丘くん。

彼はぼくがアシスタント・インストラクターになる少し前にぼくに近づいてきました。

プライベートで一緒に潜りに行かないか?と誘われたのです。

ぼくはまだアシスタント・インストラクターに認定される前で、まだ Diving Spot Triton の客という立場でしたし、断る理由もないかと思って承諾しました。

ぼくは和歌山県白浜町の円月島ビーチに潜るのが好きだったので、ぼくが計画すると白浜円月島のビーチばっかりになるよ?どこに入りたいとかある?と念は押しました。

でもなんだか暖簾に腕押しのような反応しか返ってきません。小野寺くん (仮名) とのあまりの違いにぼくは不信感を持ちます。

そして実際に二人で円月島で 2 本のダイビングをしたのですが、彼はずっとぼくの後ろをくっついてくるだけでした。そして 2 本のダイビングを終えて彼が言ったのが「2 本も同じところでつまらなかった」でした。

はぁっ!?なんて言った!?

ぼくは激昂しました。

君はぼくのバディじゃなかったの!?

計画から何から何までぼくに全部押し付けて文句を言うとか何様なの!?

なんで何もせずに文句を言えるの!?

やりたいことがあるなら、なんで計画段階でぼくに言わないの!?

きみは 2 本ともずっとぼくの後ろにくっついてついてくるだけで、ぼくと楽しみも安全なダイビングも分かち合おうとしてなかったよね!?

ぼくは君のなんなの?ガイドなの?バディじゃないの?

きみになにかあったらぼくはバディとして全力で君を助けようとするけど、もしぼくになにかあったら君はバディとしてぼくを助けてくれるの?

それとも見殺しにしてさっさと家に逃げ帰るの?

君は本当にダイバーなの?

ぼくは帰りの車の中で、ずっと彼を、バディとして一切行動しない彼を非難し続けていました。

ぼくの怒りは大阪に帰るまで、いや、帰っても収まりませんでした。

それ以後、彼は二度とぼくに声をかけなくなりました。

その後、丘くんはぼくに対するのと同じようなことを Triton の常連さんに持ちかけていたそうです。どうも常連さんから苦情が入って、師匠が Triton はゲストにダイバーとして育ってもらって卒業してもらうことを最重要使命にしているから、その行動をやめてくれ、常連さんに中途半端な状態で店を離れられて事故になったら大変だから、という話をしたようです。

その辺りの話は Triton から丘くんの姿を見なくなってから師匠から聞きました。もちろん実際の会話までは教えてもらっていません。ですが師匠は「金のことしか話さないやつはダメだ。ダイビングは無理だ」と言っていたので、たぶん丘くんのことを言っていたのでしょう。

つまり当時の丘くんは、安全や、ダイバーとしての成長や、ダイビング仲間、バディより、ガイドという赤の他人への完全依存とお金を取ったのだとぼくは理解しました。

ダイビングはお金がかかります。潜り続けようとすると金策をどうしても考えなければなりません。だからお金に固執する気持ちはぼくもわかります。ぼくも金策には苦労していましたから。

でもお金は優先順位のもう少し下に持ってこないと、スクーバダイビングという人が絶対に生きることができない場所で行うアクティビティでは危険です。彼はそのことを一切理解していませんでした。

お金に固執するならばダイビングを続けることはお勧めできません。さっさと足を洗ったほうが賢明です。お金をあまりかけずに充実感を得ることができる趣味はいくらでもあります。お金を気にするなら、ダイビングなんかやめてそっちに移ったほうがよほど賢明で世の中の常識ともマッチします。

それでもどうしてもダイビングをやめられないのなら、お金がかかる。そしてダイバーとして成長するしか無いと腹をくくるしかないのです。

ダイバーはガイドと一緒であれば安全であるという現実には存在しない虚構にすがるのではなく、自らより安全なダイバーになるしか死から逃れる方法がありません。それを怠れば、いつかはロシアンルーレットの弾丸が頭を撃ち抜きます。


原西さんが登場します。

彼女はぼくがアシスタント・インストラクターになった途端に近づいてきました。ぼくは非常勤でしたが、すでに Diving Spot Triton のスタッフになっていました。

ぼくが常勤スタッフではなく非常勤スタッフだったのは、ぼくが本業を別に持っていたことと、やはり人1人を雇用するというのは並大抵のことではなく、すでにスタッフを 1 人かかえる師匠は、ぼくまで雇用する余裕はなかったのだと思います。

「ねぇっ!!店のスタッフになったのってタダで潜れるからでしょ!?わたしたちと一緒に行こう!!安く潜れるよ!?」

ぼくは最初何を言われているのかわかりませんでした。ぼくは 30 になったばかりで、インストラクターを目指すにはあまりにスタートがあまりに遅く焦っていました。

でも彼女がぼくに何を期待していたのか瞬時に理解して、ぼくは一気に人として彼女を遠ざけたいと思いました。

彼女がプロショップのスタッフをどう見ていたのかは明らかでした。客の金でお気楽に遊んでる。そのように彼女はショップスタッフを見ていたのでした。

30 になった男がたかが十数万円のためにショップスタッフになる。そんなことがあり得るはずがないという当たり前のことを 30 にせまろうというのに彼女は理解できないのでした。

ふざけるなっ!!

そう怒鳴りたい衝動にかられましたが、ぐっと我慢しました。彼女はぼくの客ではなく師匠の客でした。だからぼくは彼女を怒る立場にありません。彼女を怒ることは師匠の仕事を邪魔することになります。ぼくは彼女への激しい怒りを内在させたまま勤務し続けることになります。

またこのときの常連さんの中に、もともと広島で水中作業の仕事をしていた佐伯くん (仮名) がいました。作業タイバーという人たちは、往々にしてレクリエーショナル・ダイバーやそれを育てているインストラクター、アシスタント・インストラクター、ダイブマスターという専門職をバカにする傾向があります。

ですが職能はまったく異なるとはいえ、作業ダイバーの多くはやはり優れたダイバーでした。だからそのことを怒りはしません。ぼくらの仕事は教育であって作業ではありません。仕事のレイヤーに共通点がないのです。だから挑発されても腹も立ちません。彼らも優れたダイバーであることも知っているから。

逆にいろいろおもしろい話を聞くことができるので、ぼくはどちらかというと作業ダイバーの人たちも好きでした。彼らの多くはスピア・フィッシャーでもありましたし、話を聞いているとやっぱりワクワクするのです。ぼくはスピアはやりませんが、でも彼らの魚との駆け引きの話は面白いのでした。

佐伯くんは作業ダイバーとして優れているだけでなく、指導の才能をも持っていました。そして彼は非常に面倒見がよく、周囲の常連さんに適切なアドバイスも行うという、まさにインストラクターとしての資質を持ち合わせた稀有な若者でした。なんで今彼がインストラクターではないのか?と不思議に思いました。なのである日ぼくはボートの上で彼に言いました。

絶対に今からでも ITC を受けたら通るからインストラクターになったら?たぶんぼくより先にインストラクターになって、ぼくの先輩にたぶんなっちゃうから、インストラクターになったら?なりなよ。ぼくの先輩になってよ。

でも佐伯くんは原西さんに潰されました。原西さんに不倫のターゲットにされたのでした。ぼくはますます密かに原西さんへの憎悪をつのらせていきました。

原西さんの行動原理は単純でした。

彼女は徹頭徹尾、自分が都合よく依存できる対象を探して、ターゲットを見つけてはくっついていこうとしているのでした。ぼくが最も嫌いな人種でした。

でも彼女との関係は仕事をしているスタッフと、その客という関係ですから、それを表に出すわけにはいきません。それを出すと仕事として成立しなくなります。ですから彼女に対するネガティブな感情が表に出ないように注意して仕事に打ち込んでいました。

でもその感情は隠しきれてなかったようです。

ツアー中のある日、師匠の弟である康隆さん (仮名) に呼び出されました。

お前、原西さんに怒ってるやろ?

隠しきってるつもりでしたが、漏れ出ていたようです。

ええか?原西さんと佐伯くんにとっては、ツアー中に逢うことが目的や。それに対してぼくらがあれこれ言う立場にない。あの場を提供し続けるのがぼくらの仕事や。

怒っていることは見抜かれていましたが、ぼくがなんで怒ってるかは理解はされていませんでした。康隆さんはぼくが不倫をしているカップルに対してネガティブな感情を持っていると思っていたのでした。

ぼくが怒っているのは、依存するために、自分の欲望を満たすためだけに、相手に近づいて言って、人を消費するように、どんどんと依存先を変えていって人を捨てていっているってことでした。

彼女はダイバーとして自立しようとも、成長しようとも、もちろん自分自身の安全にすら責任を持とうしませんでした。当然バディのことなんて彼女にとってはどうでもよかったのでした。便利に交換できる無料サービスか何かと思っていたのでした。

だからぼくは彼女が大っ嫌いでした。今でも嫌いです。

彼女をダイバーと思ったことはただの一度もありません。だからプライベートであればなおさら彼女と潜るという選択肢はなかったのでした。


ちょっとぼく自身の当時の感情が乗ってしまったので分かりにくくなってしまったと思うので整理します。

二人に欠けていたのは以下のことでした。

"ダイバーは海で簡単に死んでしまう" ということを知ってしまったぼくとこの二人との相性が最悪なのははっきりしていました。


でも……


二人のような人たちが、実はこのときのダイビングシーンですでに圧倒的多数で、ぼくたちのような講習で学んだこと、そしてバディと共にダイビングライフを楽しむこと、バディとともに安全にダイビングを行って無事に家に帰ること、そのために努力すること、そいういったことを大切にするダイバーは実は絶滅危惧種であるということを、よりにもよって師匠の店 Diving Spot Triton のゲストに教えられたのでした。