Dive #26: 恋人の日の続きのお話になります。今回ダイブマスターちゃんは、将来を約束し合ったインストラクターの彼氏くんと、二人っきりでサンゴの産卵のプライベートアタックのようです。でもインストラクターくんはダイブマスターちゃんに別の用事もあるようです。
でも、あのサービスのインストラクターさんにいい話聞いたわね。やっぱり今夜がサンゴの産卵は狙い目だって。
ガイドの仕事、そこそこやってるけど、やっぱり現地の人たちと違って、一生に一度見れるか見れないかだもんね。
都市型ショップ、つれぇわぁ。
え?おっさん臭い?
ニヒヒヒヒ
いつものことじゃん (笑)
真夜中のダイビングは久し振りじゃぞい。
いつもはお客さん、泥酔して寝てるもんね。お客さん放ったらかして、わたしたちだけで潜るわけにいかないしね。
…………
…………
ん、バディチェックOK!!
え?真面目?そりゃぁわたしらが手を抜いたらダメでしょ。
二人のときくらいは?
ダメダメ。普段の手抜きは仕事の手抜きにつながる。
手抜きが習慣化されたら、お客さん危ないっしょ。
ん?オーナーと言うことが一緒?そりゃ父娘だし似るでしょ。
あなたも、いつもお父さんと一緒のこと言ってるよ?
弟子が師匠に似るのは当たり前?
一緒じゃん (笑)
じゃ、行こっか。
サービスのイントラさん、エントリーしたら真西に 25m くらいって言ってたから、こっちでいいよね?
いやぁ人がいなくて静かで気持ちいいねぇ。
いろいろ身体剥き出しで寝とるねぇ。いつも思うけど、こいつらこんなに無防備に寝てて大丈夫なのかな?寝てるあいだに食われたりしないのかな?
ふと思ったんだけど、ハゼの仲間とかって、夜は穴の中で寝てるのかな?テッポウエビと一緒に。あとで調べよっと。
あ。
あの辺りじゃない?サンゴの群落が見えてきたけど。
…………
え?
…………
あ?
もしかして始まってる?
始まってる?
は、始まってるわ。
命の粒がこんなに……
こ、こんなにサンゴの卵が……
す、すごい。サンゴの卵に囲まれてる。
す、すごいね。
はじめて見た。
地元のガイドさんたちは、これを毎年見てるのかぁ。ずるい (笑)
お客さんにも見せたいなぁ。
…………
…………
い、いや、それだと仕事になっちゃう。わたしらがあんまり見れない。
ねぇ、知ってる?
サンゴの卵って、卵って言われてるけど、本当は卵じゃないんだって。
普通卵って受精卵かまだ受精していない未受精卵のことを言うんだけど、サンゴの卵はね、本当はバンドルって言うんだって。
バンドルの中には精子と卵子が入っていて、受精してなくて、バンドル内の精子が他のバンドルの卵子と結合して受精するんだって。
結合することがない卵子と精子がひとつのカプセルに入ってるから bundle なのかな?
…………
ん?なに?
なんで話、遮るの?
ん?
見せたいものがある?
サンゴの産卵だよ?わたしら一生に一度見れるか見れないかだよ?
え?
こっちも一生に一度?
え?ついてこい?
そりゃぁ着いてくけど……
なんなの?いったい?
もう見れないかもしれないサンゴの産卵より大事なことなの?
…………
なんかサンゴの群落から離れていってるんですけど……
いや、たいした距離じゃないけど。
砂地?なにか珍しいものでもいるの?
サービスのイントラさん、なんも言ってなかったわよ?
ん?止まって着底しろ?
するけど、なんなの?
ここになにか珍しいのがいるの?
ん?BC のポケットからなにか出そうとしてるけど何?
…………
…………
ん?何?その小箱?
…………
…………
ブ、ブフォッ!!
勢いでレギュ吐き出しちゃったよ!!
な、何!?
そ、そいういうこと!?
ドッキリかなにか?
え?カメラなんてどこにもない?
え?だ、だって
ほんとはスタッフ、ついてきてるんでしょ?こっそりと。
え?二人だけ?
た、たしかに、今日は二人だけって……
ほ、ほんとに?
も、もしかして、からかってる?
そんなことないって?
そ、そうだね。
た、たしかにあなた、マジの顔だわ。
え?お前のことはギャグにも冗談にもしたことない?
た、たしかにそうだけど……
ほ、ほんとに?
い、いや、嘘とは思ってないけど。
店の企画でお客さんに何度かサプライズ水中プロポーズ大作戦はやってきたけど、ま、まさが自分がされるとは……
…………
い、いかん。
なんかドキドキしてきた。な、なんか動揺してるわ。
これって、されると、こうなるのか。
…………
え?つ、妻になって欲しい?
…………
ま、まじか?……
え?近々あるってことは予想してだろって?
そ、そりゃぁ、指輪のサイズ訊かれてたし……
で、でも、まさか今日とは……
オーナーは大丈夫なのかな?
え?お父さんともお母さんとも、話は着いてる?い、いつの間に……
そ、外堀はもう埋まってるの?
わ、わたしまだ、二人に説得工作もなにもしてないけど。
…………
え?ぼくではダメかって?
そ、そんなわけ……
だ、だって……
だって、あなたは、ずっとわたしを……
…………
ずっとわたしを支え続けてくれてたし……
どんなときも……
…………
ほんとにどんなときも……
あのときだって……
…………
で、でも、わ、わたしでほんとにいいの?
…………
え?わ、わたしが好き?
…………
え?わ、わたし?
…………
……も
もちろん、あなたが好き……
…………
…………
…………
ちょっ、ちょっと待って……
…………
…………
ん……
…………
……ん
…………
ちょっ、ちょっと待って……
……エ、エア……。
…………
……ん
…………
好き……
…………
…………
……で、でも
もう少し、サンゴの産卵見ていきたい……
…………
あ、笑った。そこ笑うところ?
エグジット後……
エヘヘヘヘヘ
え?そりゃぁ笑うでしょ。
サンゴの産卵は見れるし。
いきなりとんでもないサプライズはあるし。
そっかぁ、お父さんもお母さんも知ってるのかぁ。
ん?
エヘヘヘヘヘ
えっとね、えっとね……
ちょっと恥ずかしいんだけど……
…………
…………
ん……
…………
……ん
…………
……好き
…………
ふぅ……
…………
これから……
これから忙しくなるね。
仕事だけじゃなくて、いろいろと、ね。準備とかね。