The road Orz passed by 2026 年 05 月
05 月 12 日 ( 火 )
Dive #156 ダニング=クルーガー曲線とダイバー
ダイバーの傲慢さの心理学:ダニング=クルーガー効果とダイビング統計の考察というなかなか示唆に富む記事を読んだ。
ダニング=クルーガー曲線というのは認知バイアスの文脈でよく語られる曲線で、例としては IT 系の技術者の間でよくネタとしてかわされる "Vim 完全に理解した"、"Vim 何もわからない"、"ワタシハ Vim チョットデキル"っていうあれである。
ダニング=クルーガー効果って人が生きていく上で理解しておくことが大事だけど「馬鹿の山」っていう言葉はちょっと変えたほうがいいと思う。元の英語のニュアンスが失われていて、認知の状態の話なのに、これではお前は馬鹿だ、って言われてると誤認される。
多くのダイバーってこの危険未認知状態の山に留まっている人が大半で、ダイブマスターですらそういう人が多い (ダイブマスターがそうなのはぶっちゃけ PADI のシステムが悪いと思ってる)。
絶望の谷を越えて啓蒙の坂を登り始めると、やっと成長曲線に乗るんだけれど、大半の人は危険未認知状態の山にとどまるし、絶望の谷の認知状態になるとダイビング自体をやめてしまうことが多い。
ダイビングの楽しみって絶望の谷から登り始めることで深まるんだけど、啓蒙の坂を登り始める人は現状ではとても少数派。この少数派の人はたいていインストラクターとかになってしまうところまで行く。それでも自分は足りないって思い続けるんだけど。
で実際にダイビングの世界では継続の大地に立てるかと言うと難しいんじゃないかと思う。だいたいの人は絶望の谷と啓蒙の坂を登ったり降りたりしてるって思う。たぶんインストラクターにまでなった人なら同意してもらえると思う。やっぱり相手は海と人なので。
インストラクターやインストラクターになりそこねた人間 (ぼくのことだ) からみた多くのダイバーの危うさ、危険未認知状態の山に留まっている現状のほぼ全てと言っていいダイバーの危うさは「なんも見えてない」ってことなんだけど、その危うさを伝えるのはとても難しい。ストレートに伝えると上から目線とか説教だとかと誤認される。
やはり安全で自立したダイバーになってもらうためには、心理的物理的安全が担保された上で一度絶望の谷に降りてきてもらわないといけないのだけれど、それは通常なかなかできないことなので、とても難しい。
経済原理を至上とするなら、今まで通り大半のダイバーが危険未認知状態の山にとどまっていてもらったほうが都合がいいし、今のダイビングの生態系はそうなっている。つまり危険未認知状態の山にいる人たちがダイビング業界の経済的源泉になっていて、ダイビングの生態系の経済的側面を下支えしている。
でもその山にとどまっている大半のダイバーはとても危ない状況に置かれてるのも観察できる。いつ事故になってもおかしくないよなって思う。
だから一度は心理的物理的安全が担保された状態で絶望の谷に降りてきてもらう必要があるんだけど、もちろん降りてきてもらうだけではダメで、さらに啓蒙の坂を登り始めるような支援をしないといけない。
特に自罰傾向の強い人は、絶望の谷に降りてくると、できない自分を許せなくてダイビング自体をやめてしまうことが少なくない。できない自分をきちんと認識できるっていうのは実はすごいことなんだけど。
だからぼくたちはそういう人には「大丈夫。順調に成長曲線に乗ってる」ってことをきちんと伝えないといけない。そして順調に成長曲線に乗った人は、ぼくたちから見るといずれ顧客と呼ぶ存在じゃなくて、同じダイバーとしての仲間になっていく。
だからインストラクターやインストラクターを目指す人は、ちゃんと人を見るって能力が欠かせない。それも成長によって得られるので、一筋縄ではいかないんだけど。
たぶん指導団体もショップオーナーやインストラクターの一部も無意識にそれを考えているけど、それに本格的に取り組むための哲学からメソッドから全てが現状で不足している。
今のダイバーを待っているのが単なる行き詰まりだったらまだいいけど、それが大半のダイバーが落ちていく崖だったとしたら……
それと啓蒙の坂を登り始めた人がやりがちなのが、未認識の山にいる人たちがやっぱり危険に見えてしまうので、一度絶望の谷に下ろして啓蒙の坂に引っ張り込もうとすること。
でもそれを可能にする方法論っていうのはまだ存在しないので、下手をすると自分自身が潰れる。なので、ほどほどにしておいたほうがリスクヘッジとしては有効。
絶望の谷に降り始めた、あるいは絶望の谷にいる人に、何かを知恵や知識、ノウハウを置いておくのはいいけれど。
過剰介入は潰れる原因なので、介入の境界は設定しておいたほうが良いよ。自分の限界を越えちゃだめだ。
でもその限界も実際にやってみないと見えないんだけど。だからいつでもそのラインから撤退できる用意だけはしておいてね。
真面目な人ほど過剰介入の罠にハマりやすいので。
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