今日のエントリーは以下の記事を読んだことが発端です。
毎度ショウガセがらみの、暑苦しいネタですみません。やはりダイブマスタートレーニングの中心の地であったことから想いが深く、水深も -40m とレクリエーショナル・ダイビングとしては破格の深さなのでご容赦ください。
紀州民報のサイトを見に行ったら記事がありました。
紀州民報のサイトの写真を見比べる限り、どう見ても人為的に盗られているようにしか見えません。
もちろん水温上昇によるという可能性を考えなくもないのですけれど。
でも、黒潮の大蛇行が収束して、太平洋沿岸の水温は上昇傾向です。黒潮の大蛇行が収束して太平洋岸の冷水渦が消失傾向なのですから、水温が上昇するのは当たり前の話です。
でもそれは南紀の海が 10 年前の状態に戻るだけの話です。なにも特別なことが起きているわけではありません。
ぶっちゃけ、黒潮の大蛇行がなく、水温も充分に高かった 20 年前、ショウガセのオオカワリイソギンチャクの大群落は元気だったのです。
さっきも述べましたが、紀州民報のサイトの 2 枚の写真を見比べるど、どうみても人にごっそりと盗まれたようにしか見えません。ネットでも調べればすぐにわかりますが、オオカワリイソギンチャクは、とんでもない高額で取引されています。しかも取引数は少なくない。
悲しいかな人はお金に困ったらなんでもする動物です。生きてくためには仕方がないっていうことは、ぼくも裕福とは言えない人間なのでとてもわかります。でも盗ってきてくれんか、という違法行為を求める誘いがあったら、即、捜査機関に連絡するので、そういう連絡はぼくにはしてこないでくださいね。
ショウガセの今の悲惨な状況は、結局そういうことなんじゃないかと思うのです。もちろん水深 -40m で現場を押さえるなんてことはとてもできません。だから推測にしか過ぎないのですが、画像を見る限り自然現象で消失したとはとても言えないと思うのです。
なんでもかんでも地球温暖化と結びつける態度というのは、報道機関としてまっとうな態度だといえるのでしょうか。温暖化を叫べばそれは無難なネタであり、無難な主張でもあるので、たしかに部数は伸ばしたり維持するのは都合がいいのかもしれません。でもそれは本当に事実を伝えていることになるのでしょうか。それって本当に科学的な態度だと言えるのでしょうか。担当は学芸部ですよね?それとも社会部の記事なのですか?社会面ってどんな言い訳をしても結局娯楽面ですよね?
と、まるでメディア批判のようなことを書いてきましたけれど、今日書きたいのはそっちの話ではありません。例のごとく、ショウガセに潜る、あるいは潜らせるダイバーの話です。辛辣なことを書くかもしれませんが、危機感の表れと思っていただければ幸いです。
ショウガセというダイビング・ポイントの未来と、それだけでなく、それ以上にぼくと同じダイバーという人たちのことを、心の底から心配しているのだということはご理解ください。そしてこのエントリーはぼく自身に対しても辛辣な言葉を自ら投げつけることになることは間違いがないのです。
今の一文で、このエントリーの内容が全部見通せた人は、回れ右していただいて結構です。今回もいつもの通り内容を決めずに書き始めていますが、おそらくいつもの通りの話になると思います。
さて、ショウガセといえばオオカワリイソギンチャクの群生であり、オオカワリイソギンチャクの群生といえばショウガセです。それくらいにショウガセとオオカワリイソギンチャクは切っても切り離せないイメージが定着しています。
おそらくこれを読んでいるあなたも、ブリーフィングで「次はショウガセに入ります」と言われて、もしガイドやインストラクターが水深 -40m のオオカワリイソギンチャクの群落に案内しなかったとしたら、おそらく肩透かしをくったような気持ちになったり、ふざけるなと怒り出すと思います。
ただ怒る前に今一度立ち止まって考えて欲しいのです。-40m というとんでもなく深い水深に潜ることがどういうことなのか、ということを。
ぼくは -40m という水深は、いくらディープスペシャルティを履修していて潜って良いとされていたとしても、レクリエーショナル・ダイビングの範疇を越えているダイビングだと思っています。といいますのは、やはり以下のリスクがあまりに高すぎるからです。
ぼくはダイブマスターになるためのコースで、ガイドの実習としてショウガセには何度も入っています。もちろんその当時、ショウガセに入るということは水深 -40m のオオカワリイソギンチャクを見に行くことを、誰にとっても意味していました。
ですからぼくも指導インストラクターから次はショウガセだということを言われると、当たり前ですがそれに則したブリーフィングを行い、ゲストを案内していました。
ブリーフィングではやはり以下の点を特に重点的に話します。
入る場所が最大水深 -40m のショウガセの最深部ですから、大丈夫そうな人でツアーメンバーが構成されていると思うじゃないですか。一般のゲスト向けのブリーフィングの前に行われるはずのダイブマスターコース用のプレブリーフィングがなかったり、そのような軽い打ち合わせであっても、その日のゲストの注意点の話がなにもなければそう思うわけです。
もちろん世間話の一環として、参加ゲストのカードランクや、ダイビングの経験、経験本数は、それとなくぼく自身もダイビング前にヒアリングはするわけです。でもまぁ、カードランクや経験数、どのようなダイビングを経験してきたかなんて話は、糞の役にも立たないという経験をしまくることになります。いや、それまでにアシスタント・インストラクターとして働いていたときから経験してはいたのですけれど。
あくまでぼくはダイブマスターコースの受講生でしたから、この人は少し注意してあげてください、中性浮力が苦手な人です、とか、過呼吸になりやすい人です、とかダイブマスターコースのプレブリーフィングで聞けると思うじゃないですか。スタッフだったらミーティングで、そういったことは打ち合わせるはずなので、ダイブマスターコースのプレブリーフィングで同様の話がなければ -40m のショウガセの最深部でも落ちついてダイビング行うことができる人たちしかいない、とダイブマスターコースの受講生としては思うわけです。
蓋を開けたら、とんだ罠じゃったよ、って状態だったのですけれど。
ぼくが案内したゲストには幸いにして深刻なガス昏睡になったり減圧症を発症する人はいませんでした。ガス切れを起こす人も幸いにしていらっしゃいませんでした。
ただショウガセに入ると必ずといっていいほどに、毎回誰かが水深 -40m で必死に立泳ぎ状態になるというのを経験していました。なぜ?!と思うのですが -40m で中性浮力が取れないのですね。
最初はハンドシグナルで BCD に吸気するように指示を出して反応を見るのですが、立泳ぎ状態の人たちって顔がこちらを向いていても、ぼくのことを見ていないのですね。見る余裕がない。
ハンドシグナルを送っても、それに応じたレスポンスが一切ないし、用心しながら近づいてマスクの真ん前で手のひらをひらひらさせても、やはりレスポンスがない。
その時点でぼくはこの人はすでにパニック状態にあると判断して、ぼくの頭の中では、この人の呼び名がお客さんではなく要救助者に切り替わります。ぼくたちはそれを一瞬で判断して要救助者の BCD のパワーインフレーターを奪い取って、バシューっと一気に給気します。
え?BCD に吸気するだけ?と思われるかもしれませんが、多くの人は BCD への給気で中性浮力を再獲得し、落ち着いた呼吸を取り戻すことを促すことだけで、それだけで自分を取り戻します。
こんなことはオープンウォーターで学んでいるのですから、本当はセルフレスキューやバディ同士で対処してほしいのですが、できない人、できないバディが多いという現実も知っています。
ぼくは幸いにして BCD への吸気と呼吸のトリミングを促すことで自分を取り戻してダイバーと呼べる状態に戻った人ばかりに当たってきました。
ですけれども、もし要救助者が自分を取り戻せないなら、要救助者の背後に回って、ファーストステージをひっつかんで、要救助者が口からセカンドステージを外さないように手で押さえて、即時に浮上に取り掛かります。そうしないと要救助者が最悪ぼくの目の前で、ぼくの腕のなかで死んでいくからです。
もうひとつぼくにとって幸いだったのは、先にも述べましたが -40m のショウガセ最深部でガス切れを起こすゲストは一人もいなかったことです。もしゲストが -40m でガス切れを起こすと、ぼくたちはすぐにレスキューに入ります。要救助者のバディにそれを求めようとは思いません。
といいますのは、やはり -40m でのガス切れは、通常は助からないからです。バディにオクトパスブリージングを求めるような、死体がもう一つ増える要求なんて絶対にしません。
だからぼくたちがオクトパスブリージングに入ります。
実際には外から見るとオクトパスブリージングですが、ぼくたちは緊急スイミングアセントになります。次の呼吸のときにタンク内に空気がある保証はまったくありませんが、緊急スイミングアセントを選びます。これはぼくたちがゲストの安全に対する最終責任者だからです。
ガス切れを起こしたダイバーは例外なくパニックを起こします。要救助者のガスの残圧が 0 ということは、ぼくたちの残圧も少ないことを意味します。要救助者はぼくのタンクの残圧もあっという間に吸い尽くしてしまうでしょう。
-40m から 2 人が無事に浮上できるだけのエアはタンク内に残っていないのがほとんどです。ましてや要救助者はパニック状態でしょう。何メートルまで浮上できるかわかりませんが、恐らく背中のエアは水面まで保たないと思います。背中のエアが切れたときが 2 人が終わるときです。
でも正直思います。実際にそんな場面になったら、浮上しながら、こう思うんだろうなって。
たぶんぼくはここでこの人と一緒に死ぬんだなって。自分のガス管理や自分のダイビングの管理もできない人を、なんで仕事とは言え、こんな危険な場所に入れたんだろう。なんで入れなきゃならないんだろう。なんでぼくが一緒に死ななきゃいけないんだろう。ぼくにだって守るべき家族はいるのにって。
白浜でインストラクターが亡くなったときのエントリーでも、ぼくらは自身の身の安全を守るためには、水面で自分自身の BCD への給気を行いわないことも述べました。
ぼくらの仕事ってそういう仕事なのです。わかってない同業者も多いですけれど。
中性浮力の話に戻します。ぼくはショウガセに入るたびに水深 -40m で立泳ぎ状態のゲストのケアをしてきました。レベルが低いと彼ら彼女らを非難するのはとても簡単です。でも口先だけでなら子供でもなんとでも言えます。ぼくらは実際に事故にならないように対処する必要があります。
何も知らない人たちって、そんな状態になるのは未熟な初心者のみって思うじゃないですか。現実は違います。ぼくがショウガセの水深 -40m で BCD のパワーインフレーターを奪って給気してケアしてきた人で、要救助者になりそうもない人からリストしていきます。少なくともヒヤリハットの当事者になるのにカードランクや経験本数、ダイビング経験が関係ないことをこのリストが物語っています。
誰でもじゃん、って声が聞こえてきそうです。そう、誰でもなんです。現実は誰でもヒヤリハットの当事者ですし、なったことがないって人は、自分が当事者になっていたことにまったく気がついていないか、まだなっていかってだけです。
たしかに延べ人数は多くはありません。ですが、ぼくはアシスタント・インストラクターとして働いているときと、ダイブマスター候補生としてトレーニングに励んでいるときに、ヒヤリハットはカードランク、経験本数、ダイビング経験とは無関係だということに気がついてしまいました。
それと同時に、ぼく自身も条件がそろえば、そんなヒヤリハットダイバーになるという確信も持つようになりました。ショウガセの -40m でぼくが見た、懸命にゲストのケアをしているあのダイブマスターも、あのインストラクターも、等しく条件がそろえば、そのゲストと同じ状態になると確信するようになりました。ぼくたちがケアしているヒヤリハットダイバーの姿は、いつかやってくる、ぼくたち自身の姿だと思うようになりました。
ぼくたちはヒヤリハットを起こさないのではなく、ゲストのヒヤリハットへの対処という、ぼくらがそうなりにくくなる体験を日々しているから起こしにくいだけで、条件がそろえば同じ状態になるのは間違いがなく、それは程度の違いでしかない、そう今でも思います。
ぼくがショウガセにオオカワリイソギンチャクを見に行こうとする一般のファンダイバーにお願いしたいのは、ブリーフィングで述べたことが全てです。きちんと中性浮力を取って、バディシステムを守り、ご自身とバディのエア・マネージメントをして、NDL の管理をしっかりとしてください。そして安全にオオカワリイソギンチャクの希少な姿を楽しんでください。
と、まるでもう〆のようはことを書きましたが、もう一つ一般のファンダイバーの人には言っておかないとだめなことがあります。
それはショウガセのオオカワリイソギンチャクのいる水深は -40m ものとても深い水深なので、そこに滞在できる時間は 50 秒程度です。それ以上その水深にとどまるとダイブ・コンピュータはどこかのタイミングでシーリングを表示します。シーリングとは減圧停止指示です。
水深を浅くしてシーリングが消えれば大丈夫と考える人が大半かと思います。その大丈夫は、まったく大丈夫ではありません。なぜ大丈夫じゃないのかを理解するのは簡単です。シーリングが出るということは、体のどこかの組織の過剰な窒素が、組織内で飽和しているのではなく、すでに組織内で過飽和だということです。いつ減圧症の症状が出てもおかしくない、そういう状態であると正しく理解することが大切です。
さて -40m というショウガセ最深部の水深は、そのようなリスクだらけの世界なのですが、そもそもそんな危険な場所にゲストを連れて行くことについて考えてみたいと思います。
さてショウガセのオオカワリイソギンチャクを見に行くにはショウガセの根頭からドロップオフを降下して、オオカワリイソギンチャクの群落がある水深 -40m まで降りなければなりません。
ぼくが担当したゲストには幸いいらっしゃらなかったのですが、このドロップオフを降下するときに、恐怖心からストレスが溜まって、過呼吸に陥るゲストがいらっしゃいます。
このようなゲストがいらっしゃる場合、ガイドやインストラクターの役割はそのようなゲストの呼吸を落ち着かせて、水深 -40m まで連れて行くことではありません。オオカワリイソギンチャクの群落を見に行くことはスキップしなければなりません。
-40m に降りていく心理的またスキル上の準備ができていないゲストを、-40m にお連れすることは非常に危険です。最悪 -40m でパニックを起こしてしまって、最悪の事態を招きかねません。
ガイドやインストラクターがするべきことは、計画を柔軟に変更して、あまり深くない水深で、いろんな生物などを見ていただいて楽しんでいただくことに、そのダイビングを軌道修正することです。
ショウガセの魅力はなにもオオカワリイソギンチャクだけではありません。カンパチなども回ってきますし、イサキやタカベの大群なども見ることができます。根に生息する様々な生物もいます。ショウガセはあまり深くない水深でも楽しめます (それでも実際は深いのですけれど)。
-40m で中性浮力と取れないダイバーが危険なことは前述しました。本当に水深 -40m でパニックになるダイバーは危険です。本人が最も危ないのですが、パニックダイバーは周囲のダイバーを巻き添えにすることがあります。
ですから中性浮力すら取れないダイバーを -40m に連れて行ってはいけません。グループ全体を危機的状況に陥らせかねません。どうしてもオオカワリイソギンチャクを見たいとおっしゃる中性浮力が取れないダイバーには、カードランクや経験に関係なく、追加のトレーニングを繰り返して頂いて -40m でも落ち着いて中性浮力を保って安全に潜れるダイバーになってもらってください。案内するのはそれからです。
ゲストの過剰な背伸びは最悪の事態を招きかねません。レベルアップしてからお越しくださいと断るべきです。なにかあってからでは遅すぎます。
また中性浮力が取れないダイバーは、オオカワリイソギンチャクに無視できないダメージを与えます。
ぼくが担当したゲストにはいらっしゃいませんでしたが、オオカワリイソギンチャクの真上で立泳ぎ状態になって、オオカワリイソギンチャクをガンガンフィンで蹴りまくるよそのショップさんのダイバーを目撃したこともあります。
またこれはぼくが案内したゲストにもいらっしゃったのですが、立泳ぎ状態でオオカワリイソギンチャクをガンガン蹴らないとしても、やはりフィンキックで巻きおこる水流がオオカワリイソギンチャクに大きなダメージを与えていることがほとんどです。これはいわばヘリコプターやオスプレイ、ハリアーなどが巻き起こすダウンバーストのようなものをオオカワリイソギンチャクに浴びせているのと一緒です。
また中性浮力が取れるダイバーの中には、オオカワリイソギンチャクの真上 30cm くらいの水深を泳ぎまくる人もいました。本人はオオカワリイソギンチャクにダメージを与えていないつもりなのですが、フィンキックで起きる水流でやっぱりダメージを受けています。
ぼくが最初にショウガセに入ったときに、そんなダイバーばかり目にしていたので、その次からはオオカワリイソギンチャクの上、2 〜 3m の水深を維持して、それ以上は近づかないようにブリーフィングで話し、水中でもハンドサインで指示していました。このような指示に従えないダイバーも案内するべきではありません。次回からは断るべきです。
こんなダイバーはショウガセには本当にたくさんいました。こんな無秩序なガイディングをしていたら、ショウガセのオオカワリイソギンチャクが遠からず絶滅状態になるのではと当時から危惧していました。そして今でもダイバーのスキルを考えずに多くのダイバーを無秩序に入れたせいで、オオカワリイソギンチャクは絶滅状態になった思っています。
安全面からも、みんな誰もが身の丈にあったダイビングをするべきです。背伸びは管理可能な範囲に留めるべきです。
なお、ぼくがこれまで述べてきた、ぼくたちインストラクター、ダイブマスター、アシスタント・インストラクターがよく採るレスキュー行動は、一般ダイバーの方は真似しないでください。パニックダイバーにいきなりしがみつかれたりすることもあり、とても危険です。
最悪その人と一緒に水深 -40m で溺死することになります。一般のファンダイバーは現場が -40m であるならパニックになったバディを見捨てても恐らくぼくらのように過失責任は追求されず、緊急避難として扱われると思います。ご自身の命と安全を最優先にしてください。
水深 -40m とはそういう水深なのです。